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 夜空に広がる満天の星。連なる光の群れは見る人を圧倒しながらも、その光は柔らかく、心を落ち着かせる。
 アリカは窓辺に寄りかかりながら夜空を眺めていた。こうしてのんびりと星を見るのは昔から好きだった。
「アリカ・ランザート。電球が切れたのか?」
 音もなく現れた姿にアリカは驚かず振り返った。最近、ようやく慣れてきた姿―リリーシアだった。
「違うんです。俺、星見るの好きだから……」
 部屋に明かりがあると星が見えにくい。それは通じたようで、リリーシアは黙って頷いた。だがすぐに辺りを見回して首を傾げた。
「ティシー殿は?」
「研究から戻ってこなくて…」
 寂しそうにうつむく姿に、リリーシアは少しだけ憐れんだような目を見せた。常に無表情の彼には珍しいが、アリカは人を懐柔させる力があるのだろうか、最近はアリカにだけだが時折和らいだ顔を見せるようになった。
「アリカ・ランザート。七夕という行事を知っているか」
「たなばた…?」
「ああ。笹に短冊という、願いを書いた紙をつるすというものだ。私がいたティティル国では毎年、大人も子供も書いている」
「願い事を……?」
「今日がその日だ。よかったら、これを」
 そう言って取りだしたのは淡い水色の長方形の和紙だった。アリカは受け取るとそっと胸に寄せ、目を伏せた。
「リリーシアさんは、何をお願いしたんですか?」
「私は……。平和であるように、と」
 すると、アリカは嬉しそうに微笑み、リリーシアの頬に赤味が差した。リリーシアはとっさに顔をそむけ、それではと言うとどこかへ消えてしまった。
(もう少し話したかったのに)
 再び静寂が訪れる。アリカはリリーシアが消えて行った方向を見つめながら、短冊にそっと力を込めた。
(願い事、かあ……)
 目を瞑り、色々と考えてみる。リリーシアのように平和を願うのもいい。やはり平和が一番だ。
(でも、俺は……)
 再び目を開けると、明かりを付けた。そしてペンを持ち、想いを巡らせる。浮かぶ言葉はやがて願いとなり、アリカは緊張しながらもゆっくりと書き始めた。

 黒く染まる廊下を歩きながら、ティシーは伸びをした。今日もまた研究のせいで夜遅くの帰宅となってしまった。
(ありこちゃん、寂しがってるかなあ……もう寝たかなあ……。研究のせいで、全然話せない)
 ティシーの中でうっぷんがたまっていく。アリカと触れれないのも辛いし、話せないのも辛い。アリカが寂しがってると思うと、それも辛かった。頭の中がアリカ一色に塗りつぶされていく。
 だが本当のところ、そうやって考えていないとどうすることもできない加害の衝動が浮かび上がってしまう。ほの暗い想いが浮上してしまう前に、アリカという重しで沈める。
 ティシーは軽く首を振ると、ふと足を止めた。真っ暗な廊下に一筋の光が零れている。それはアリカがいる、ティシーの自室からだった。
「ありこちゃん?」
 起きているのだろうかと期待しながら急いで入ると、アリカは眠っていた。しかも、ベッドではなく机につっぷすように。
「何か作業でもしてたのかな……?」
 そっと近付くと、水色の紙が見えた。ペンで何か書いたのだろうかと、アリカを起こさないようにゆっくりと抜きだした。
 それは和紙で、吊るすためなのだろうか糸が付いている。ティシーは七夕という行事を知っていたので、それがそのための短冊だと理解した。そして案の定、願いが書いてあった。一行、かわいらしい丸い字でこう書かれている。
「ティシーが風邪を引きませんように」
 言葉にすると、ティシーは口元を押さえながらつい笑ってしまった。連日遅くまで研究しているティシーを思っての願いだろうか。あまりにも謙虚で、アリカらしいものだった。
「ありがとう、ありこちゃん」
 緩やかに眠るアリカの頬にキスをし、起きないようにと念を入れながらベッドに運ぶ。そしてそのまま小さなアリカを抱え込みながらティシーもベッドに転がった。
(ありこちゃんがありこちゃんのままでいてくれたら……僕もこのままでいれる気がする)
 アリカのぬくもりを確かめつつ、ティシーもまた安楽の眠りへと落ちて行く。そして完全に落ちる前に、ティシーも星に願いを念じた。
 どうか、このまま安息の日々が続きますように……。



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